松山地方裁判所 平成11年(行ウ)4号 判決 1999年10月15日
原告
友近昭博
被告
松山税務署長 岡本良規
右指定代理人
白石豪
同
宇野秋則
同
海野眞次
同
加藤公一
同
片岡大司
被告
国税不服審判所長 島内乘統
右指定代理人
正司哲浩
同
岡崎山
右被告両名指定代理人
鈴木博
同
薬師神和夫
同
中條晴之
同
内海洋治
同
白石国夫
同
村上賢二
同
高丸雅幸
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告松山税務署長が、平成九年六月一八日付けでした、原告に対する相続税無申告加算税賦課決定を取り消す。
二 被告松山税務署長が、平成九年一〇月三一日付けでした、被告松山税務署長がした相続税無申告加算税賦課決定に対する原告の異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。
三 被告国税不服審判署長が、平成一一年三月一六日付けでした、被告松山税務署長がした相続税無申告加算税賦課決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。
第二事案の概要等
一 本件は、被告松山税務所長が原告に対してした相続税の無申告加算税の賦課決定処分につき、原告が、申告書は期限内に提出した、あるいは、仮に、期限後の提出であるとしても、正当な理由があったとして、(一)右賦課決定処分の取消し、(二)右賦課決定処分に対する異議申立棄却決定の取消し、(三)右賦課決定処分に対する審査請求棄却裁決の取消しを求めた事案である。
二 前提事実(争いのない事実及び末尾記載の証拠並びに弁論の全趣旨により認められる事実)
1(一) 原告、友近温壽(以下「温壽」という。)及び友近かず子(以下「かず子」という。)は、友近盛秀(以下「盛秀」という。)の子であり、平成八年三月一〇日、盛秀が死亡して相続(以下「本件相続」という。)が開始されたことにより、その相続人となった(甲七)。
なお、盛秀は、昭和五七年一〇月一日、公正証書により、すべての遺産を温壽に相続させる旨の遺言をしていたが、昭和六〇年八月五日、松山市小栗六丁目三三七番一田一二七六平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)は原告に、松山市小栗七丁目三二〇番一田一二五四平方メートルの土地はかず子に、その他の遺産は温壽にそれぞれ贈与する旨の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした(甲五、乙一)。
(二) 原告は、平成八年三月一二日、日本の国際協力事業団(JICA)の専門家として派遣されていたポーランドにおいて、日本大使館を通じて盛秀が死亡したことの連絡を受け、一時日本に帰国した後、再びポーランドに戻った(甲八、原告本人)。
(三) 原告は、平成八年四月一三日、ポーランドにおけるJICAの任務を終えて帰国し、その後求職活動を行っていたが、同年九月二五日、SSAジャパン株式会社(以下「SSAジャパン」という。)に入社した(甲八、原告本人)。
2(一) 温壽は、平成八年五月一日、前記公正証書遺言に基づき、相続を原因として本件土地等の所有者を盛秀から温壽とする所有権移転登記を経由した(甲五)。
(二) 原告は、平成八年五月一四日、本件遺言の検認手続を行った(甲五)。
(三) 原告は、平成八年九月、温壽を相手方として、本件遺言に基づき、本件土地について、所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起し、同年一二月二日、原告らの請求を認容する旨の判決が言い渡され、同月一九日、右判決は確定した(甲四、五)。
3(一) 原告は、平成九年一月二〇日、本件相続にかかる相続税について、課税価額を四〇〇〇万円、納付すべき税額を一四六〇万七三〇〇円と記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を被告松山税務署長に提出した(甲一)。
なお、原告は、本件申告書を提出するまでの間、本件相続に関して、税務署に問い合わせるようなことはしなかった(原告本人)。
(二) 被告松山税務署長は、本件申告書の提出が期限後の申告に当たるとし、国税通則法六六条三項を適用して、納付すべき税額一四六〇万円(同法一一八条三項により、一万円未満の端数は切捨て)に対し、一〇〇分の五の割合を乗じ、平成九年六月一八日付けで、無申告加算税の額を七三万円とする相続税の無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った(甲二)。
(三) 原告は、平成九年八月三日付けで、被告松山税務署長に対し、本件賦課決定処分を不服とし、その全部の取消しを求めて異議申立てを行ったが、被告松山税務署長は、同年一〇月三一日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定(以下「本件異議決定」という。)を行った(甲三)。
(四) 原告は、平成九年一二月二三日付けで、被告国税不服審判所長に対し、本件異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして審査請求を行ったが、被告国税不服審判所長は、平成一一年三月一六日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を行った(甲一)。
三 争点
本件の争点は、<1>本件申告書が、相続税法二七条一項に定める期限内に提出されたものであるか否か、<2>仮に、本件申告書の提出が期限後であるとしても、国税通則法六六条一項ただし書にいう「正当な理由」があるといえるか否かである。
1 原告の主張
(一) 本件申告書は期限内に提出されたものであること
原告は、平成八年三月一〇日から同年四月一二日まで(盛秀死亡のために日本に一時帰国していた六日間を除く。)、JICAの専門家としてポーランドに派遣されており、仮に、納税義務者が国外にいる間は、相続税の申告期間の進行が停止・延長されるという規定等が存在するのであれば、原告の相続税の申告期限は、平成九年二月六日ころになるのではないかと考えられる。
(二) 国税通則法六六条一項ただし書の「正当な理由」があること
本件遺言には、本件土地を原告に贈与する旨の記載があるが、遺産分割協議によって遺言と異なる内容の遺産分割がなされることがあり得るから、原告は、本件遺言によって本件土地を取得したということはできない。原告は、別件訴訟の判決が確定しないと本件土地の所有権を確定的に取得できないと解釈していたため、右判決が確定する平成八年一二月一九日を待って登記申請を行い、さらに、期限内に申告をして相続税を納付することにしていたところ、同月二〇日、当時勤務していたSSAジャパンから、平成九年一月九日から同月一六日までアメリカに出張し、同月一七日にその報告を社長にするように命じられ、平成八年の年末と平成九年の年始は右出張の準備等に忙殺されて、結果的に本件申告書の提出が同月二〇日になってしまった。右出張命令は、SSAジャパンにおける三か月以内の試用期間中になされたもので、原告は、相続税の申告を優先させて右出張を遅らせるか拒否していれば、直ちに解雇が予想される状況にあったのであるから、本件申告書の提出が期限後になったのは、原告に帰責性のない、やむを得ないものであり、加算税を課されないための要件である「正当な理由」(国税通則法六六条一項ただし書)がある場合に該当する。
2 被告らの主張
(一) 本件賦課決定処分の適法性について
(1) 原告は、納税義務者が国外にいる間は相続税の申告期間の進行が停止・延長されるという規定等が存在するのではないかと主張するが、相続税法において、そのような規定等は存在せず、右主張は理由がない。
(2) 原告は、本件申告書の提出が期限後のものであるとしても、「正当な理由」(国税通則法六六条一項ただし書)がある場合に該当する旨主張するが、右「正当な理由」がある場合とは、平均的な通常の納税者を基
ところが、原告は、別件訴訟の判決が確定しないと本件土地の所有権を確定的に取得できないから、それまでは相続税の申告をする必要はないとの解釈のもと、右判決が確定する平成八年一二月一九日まで申告書を提出していなかったところ、おりしも右判決が確定した翌日に勤務先からアメリカ出張等を命じられ、その準備等に忙殺されることになって平成九年一月一三日までに申告書を提出することができなくなったというのであり、しかも、その間、疑問点を税務署に問い合わせるようなこともしていないというのであるから、結局のところ、なすべきことをなさなかったために申告期限が経過したというほかなく、これをもって加算税を課すことが不当又は酷となるような真にやむを得ない事情があったということはできない。
(四) そうすると、本件申告書の提出が期限後になされたことにつき、「正当な理由」は存しないものと認められ、原告の本件賦課決定処分の取消しを求める請求は、理由がない。
二 本件異議決定及び本件裁決の各取消しを求める請求について
1 行政事件訴訟法一〇条二項によれば、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消を求める訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の違法を理由とすることができないとされ、異議申立てを棄却した決定の取消しを求める訴えについても、同様に解されているところ、原告が、本件異議決定及び本件裁決の各取消しを求める理由は、原処分である本件賦課決定処分の違法に尽きるのであって、本件異議決定及び本件裁決固有の違法を主張するものではない。
2 したがって、本件異議決定及び本件裁決の取消しを求める請求は、主張自体失当であって理由がない。
三 以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊永多門 裁判官 木太伸広 裁判官 末弘陽一)